SPS スウェーデン−日本 コロキウム ”Current Approaches &Future Perspectives on the Human Genome,Transcriptome & Proteome”に参加して

 海外に行くと、言葉、地域性、文化の違いなどから、いろんな経験をすることになる。このような経験はいろんな意味で良い「刺激」となって、サイエンスをする上でも良い効果をもたらすのかもしれない。今回、JSPSコロキウムに参加させて頂き、ストックホルムを訪れた。コロキウム以外でもいろんなことがあって、とても有意義であった。少し書いてみたい。。。


 2010年、1月17日の夜、雪が降るストックホルム・アーナンダ空港に降り立った。日本で聞いていたニュースによると、ヨーロッパは異常気象の大寒波到来という話であった。空港から出ても、思ったほど寒くはない(その前の週がひどかったらしい)。外国での深夜の到着は不安であったが、JSPS 手配のタクシードライバーが、出口で待機してくれていたので、ひと安心であった。タクシーに乗り込み、さっそくホテルに向かう。しかし、車はハイウェーに突入した途端、時速120km/hを超えた。。。外は雪が降っており、もちろん氷点下。路面は凍っているかもしれないのに、車間距離は驚くほど短い。。。先ほどの安心感は吹っ飛び、ちょっと恐怖であった。みんな雪の中をこんなに飛ばすのだろうか? 恐怖の中で、窓の外を見た。地球の極点近くにいるからなのか、夜空が何となく明るいような気がした。白っぽいのである。恐怖の中でも日本好きの運転手との会話が盛り上がった。運転手は3度日本に来たことがあり、日本人の何事も「正確」にこなす能力に深く感銘を受けているたらしい。あっという間に30分が過ぎ、無事、ホテルODENに到着した。暖かいホテルの部屋で安心したのか、ベットにはいってすぐに寝てしまった。


 さて、コロキウム当日の話である。
朝からホテルを出発し、カロリンスカ研究所の「ノーベルフォーラム」という建物に到着する。こじんまりとした建物なのだが、名前が名前だけに「厳かな」感じがしたのは私だけだろうか? 建物の中に入るだけで緊張してしまった。コロキウムはいろんな話題の話が混在しており、とても興味深かった。私が一番感銘を受けたのは、Lundeberg教授の話である。教授は露出している皮膚の細胞のゲノムシークエンスをおこない、皮膚の細胞で頻発するp53の変異を発表された。日光に少々当たるだけで、ゲノムの守護神、p53に変異が入ってしまう。これはかなり恐怖である。私は子供の頃、外で遊び回り、夏は「焼け焦げ?」ていた。当時は、それが「健康の証し」と言われていたのだが、、、時代が変われば考えも変わるものである。私はいったいどれだけのゲノム変異を体の中にため込んでいるのだろうか? 教授は白人について調べられたと思うが、黒人や私たちのような黄色人種でも同じ結果になるのだろうか? 皮膚だけでなく、その下の臓器はどうなのだろう? いろんな疑問がふつふつとわいてくる。とても興味深い話であった。


 コロキウムは無事終了し、翌日、知り合いの研究者をカロリンスカ研究所に訪ねた。まず、目についたのがラボの実験机。日本の場合は、ダルトンなど、実験机が「黒」であることが多いが、カロリンスカの実験机は「白」。このためか、ラボ全体がとても明るい感じがした。整理棚なども、スウェーデン製のIKEA家具のように木目調であって、暖かみを感じる。北欧の冬は日が短く、日中も外はどんより曇っているため、部屋のなかはより明るく、暖かみを持たせているのかもしれない。飛行機で世界中の人が行き交う世の中ではあるが、ラボのデザイン一つ取っても、このようにその場所場所で異なっているのはとても興味深い。異なる環境で、異なるサイエンスが芽生えてくる。それでは、日本でのサイエンスとは? いろいろ考えさせられた。


 時間があったので、ノーベルミュージアムに寄ってみた。近年、日本でも何人もの先生方がノーベル賞を受賞され、マスコミに取り上げられるので、ご存知の方も多いかもしれない。しかしながら、私が驚いたのは、ミュージアムに、たくさんの幼稚園児や小学生の子供達が訪れ、楽しく遊んでいることであった。ミュージアムには子供用のコーナーが設けられており、いろいろ工夫を凝らした展示や遊具が備えてある。子供達は、思い思いの方法でサイエンスを楽しんでいるようだ。このような状景を見ていると、スウェーデンの次世代のサイエンスも安泰であり、この小国から、今後も面白いサイエンスが出てくるに違いないと思った。異なる場所を訪れると、異なるアイデアが芽生えることもあるだろう。私はスイスに住んでいたことがあるが、スイスにしてもスウェーデンにしても小国である。小国でどのようにユニークなサイエンスをするのか? 私たちが学ぶべきことは多いと思う。

 
謝辞

 最後に、コロキウムのオーガナイザーの理研・林崎先生、カロリンスカ研究所Kere先生、またJSPSストックホルム事務所の皆様方に深く感謝致します。